巻き寿司、ちらし寿司には欠かせない桜田麩。だがなぜ、あれが「田麩(でんぶ)」なのだろう。大豆や小麦で出来ているわけでもない。海のものである。魚肉を加熱してほぐしたものだ。味もまた、そのまんまに、全身で「われはシーフード」と叫んでいる。ぜったいに田んぼ由来ではない。
ネットで検索したところ、なぜその漢字を当てるのかといった解説をしている文章は(個人の推論を除き)見当たらなかった。やたらと気になる。。。
ところで桜田麩には思い出がある。あまり楽しくない思い出だ。桜田麩そのものに恨みはないが、どうしてもある件がセットで思い出されてしまうのだ。
おそらく小学校低学年くらいだと思うが、わたしは外国の昔話によく出てくる「ミルクのはいったおかゆ」に興味があった。おそらくそれはシリアルのようなものだったのだろうと、いまなら思うのだが、子供にそんなことはわかりはしない。あるとき、わたしが風邪気味で学校を休んだか何かで、おそらく母がちょっといらついていたときのことだ。
(余談だが、わたしは小学校時代にこまめに微熱を出すことがあり、親が心配性だったため微熱でも学校を休ませた。わたしが家にいると普段の家事の段取りがぜんぶ狂って、しかも自分の時間がとれなくなるので、母はかなり困っていたはずだと、いまにして思う)
母が困っているなどと想像もできなかったわたしは、自分が学校に行かなくていいものだから(しかも本格的な体調不良ではなく、親が念のために休ませた程度だから)元気がある。そこで、母親がおかゆを持ってくれた器を前に、余計なことを言ってしまった。
わたし「ミルクのおかゆって、どんなの?」
母「知らないよ、そんなの。牛乳のことだろうけど」
わたし「あのね、本にミルクのおかゆの話があって…」
母「もう…わかったから、ほら、これが牛乳だよ」
いきなり、ぬくもりのあるおかゆの皿に冷たい牛乳が(大量ではないにせよ)投入され…わたしはびっくり。温度の違いもあるし、塩味の米粥に普通の牛乳が合うはずもなく、途方にくれてしまった。おそるおそるひとくち食べたが、うまくない。
違う、何かが違う、昔話では美味しいんだもの。くまさんたちとか、喜んでこれを食べるんだもの、何かが決定的に、ちがーうぅ!
複雑な表情をしながら皿を見つめているわたしに、しびれを切らした母は「ほら、じゃあこれで味が変わるだろうから、早く食べちゃいな」と、皿にピンクの桜田麩を放りこんだ——
もう、そのあとどうしたのか、わたしはまったく思い出せない。決定的に何かが違うという葛藤と、目の前でそれがさらなる変貌を遂げたことと、いろいろな衝撃でわたしはかなり感情面でぶっ飛んでしまったのではないかと。
おそらく皿に手をつけずにわがままを言いつづけ、母に迷惑をかけたのだろうな。
ひな祭りの画像をどこかで見たからだろうが、今日はひさびさに思い出した。この話は親しい人に数回話しただけで、滅多に思い出さないのだが、寿司にはつきものなので仕方がない。