本編の後半が有料記事なので、あくまでこの記事を話題にしている他のニュースサイトを読んだ印象になってしまうが、ご容赦願いたい。
GACKT氏が、滞在中のフランスのホテルにて、朝食時に不快な思いをした話をブログマガジンで紹介したという。店内が混んできてもアジア系宿泊客の着席場所が固定され、比較的スペースに余裕があって眺めもいい場所は「見たからに白人系」のため、店の担当者がとりおきしていたという。氏はしばらくそれを眺めていたが、黙っていないで担当者に声をかけたということのようだ。ネット上では、おおむね「すごい」と話題になっているらしい。
差別はいけない。とくに見た目でもすぐにわかる人種差別をそのまま黙認してしまうことは、している側の意識を助長させ、されている側を卑屈にさせる。だからおおむね、氏の行動は理想的かと(←ご本人の立場で考えて、そして結果を見るかぎり)思う。
わたしは差別にいい面があるなどとはひとかけらも思っていない。だがいちおう、以下を書かせていただきたい。
この例の場合に問題になるのは、朝食時のレストラン利用者のおそらくほとんどが「宿泊客」であったはずという点だ。わざわざホテルを出て街のカフェを利用するという選択肢がない人たち、あるいは朝食込み料金の関係などで「そうしたほうが経済的な面で一般的」という人たちを差別した…ということである。宿泊まではどの人種も受け入れておきながら、大勢が一同に会する場で誰が見てもわかるような座席差別をされたら、それは声を出す勇気がある人が、すばらしいと思う。
だが、もしこれが、ホテル内のレストランでなかったら、という話をする。
たとえば、いかにも「観光客程度の人、とくにアジア人にはいってきてほしくない」という雰囲気をありありと出している店に、わざわざアジア人観光客が予約を入れようとしたら、それはよほどの事情がないかぎり「やめておいたほうがいい」と、思う。どんな場所に出かけてもいい、誰も行動を(自分の人種などで)制限されることがあってはならないというのは、そういった場合においてただの理想論でしかない。無駄な争いをせず、(そうせねばならない事情があるならともかく)摩擦が生じにくい場所を選んで入店していくのが、誰から見ても無難ではないだろうか。
仮の話をする。日本のどこかに100年の歴史がある老舗料理屋があったとしよう。一見さんや、誰かの知り合いであっても初回のお客さんを、最初は気軽なテーブル席のみに案内していこうという事例は、想像に難くない。そしてその客が回を重ねるか、あるいは古くからの顧客が初回に同伴して直々に紹介したなどの事情があれば、次回からは通される座敷がよくなっていくというのは、誰でも理解できる話と思う。それは差別ではなく、人間関係の構築が深まった相手を奥に通すという方針にすぎないように思える。
だがこういう店に「カネを払うと言っているのに奥座敷に自分を通さないのか」と乱暴に言ってくる人(たとえば見たからに外国人で、一見さん)がいたら、店側としてはカネの問題ではないからと反発する気持ちがはたらくし、正直なところ、そのような強い物言いをする人を怖いと感じるゆえ、気持ちのよい接客はできないだろう。だがそれを「人種差別だ」と言われたら、そしてその言葉の強さに周囲が過剰反応したら、店にも客にも、おたがいにしこりが残る上、あらぬ噂を立てられてしまう。
そうしなければいけない理由がある場合を除き、そんなに強くでないほうが、双方にとってハッピーなのである。これを回避していこうというのは、臆病でもなんでもないと、わたしは思う。
短期滞在や海外旅行などのレベルであるなら、ちょっと程度の不愉快なことは「この人はアジア人が嫌いなんだろうな」という程度に受け流せばいい。そういう人が多くいそうな場所を避けておいたほうが、無難に思う。個人的にひどい中傷を受けたなどなら話は別だし、現地に長くお住まいの方などはもちろん立場が違うが、楽しいことだけを記憶しながら駆け足で現地をまわる観光客であるならば、減らせる摩擦は減らしておいたほうが、楽しい時間を過ごせると思っている。