けっきょく、誰かが佐野氏に「あなたのエンブレムを使うのをやめる」と告げたのではなく、本人からの申し出という形をとったらしいが、結果として(遅れに遅れて)エンブレムは作り直すことになったらしい。
大会組織委員会の記者会見を少し見ていたが、釈然としないのは(以前から指摘されていることであり、関係者たちも述べてきたことだが)「最初の案は違った、それを作り直させた」という点。普通、そんなことがあるのだろうか。1位になった人の作品に問題があったら、何らかの事情が生じたことを公表した上で「2位の人の作品にします」と、即座に決断するべきことではないのか。
佐野氏は「バッシングから家族やスタッフを守るため」に使用中止を申し出たという。しかも「原案者」だという。この方はサントリーのトートバッグでも突然「監修していた」と述べたが、後出しじゃんけんのためにいつも手を隠しているような気がする。誰がエンブレムの「原案」などと思っただろうか。サントリーは「監修」といまさら言われて約束が違うと憤慨しないのか。少なくともサントリーは佐野氏デザインのトートバッグと広告に打っているのだから、佐野氏に抗議しないのであれば、世間からサントリーが嘘つきと呼ばれる危険性もあるはずなのだ。水面下で戦っているのか、あるいは深追いできない何らかの事情でもあるのか。
今日の委員会の会見を見ていても、佐野氏本人のコメント(文章)を読んでも、なにやら「デザイン業界的には事情がわかることであっても一般人のみなさんにはそれをわかっていただけないので、これ以上の問題になる前に」と、言っているように聞こえるのである。だがあえて言わせていただこう。理論などはどうでもよい。広告もエンブレムも見る対象は一般人、そしてそれらを見て感動したり、ただわいわい語りあったりするのも、一般人。業界の事情や高尚なお話はどうでもよいのである。
競技場とエンブレムと、さんざんあれこれつまづいている五輪だが、果たしてどうなるのだろうか。ねんのために書くが、わたしはこれまで一度も2020年の東京オリンピック案に賛成したことはないし、心を動かされたこともない。ただ積極的にぶーぶーといつまでも文句を言うわけにもいかないので、せめてなにも言わずに済むように、できるだけ沈黙してきた。実際のところ、いまからでも、開催をやめてもらいたいとは、思っている。