趣味のひとつが製菓製パンであるため、調理に関係がある材料や器具の用語とそれに対応する外国語には関心がある。なかでも砂糖にはときどき頭を悩ませてきた。
上白糖は、日本以外であれを使っているように思えないため(少なくとも外国の砂糖であの雰囲気のものを見たことがない)、日本語に翻訳された文章に「上白糖」を見かけると、元の単語がかなり気になってしまう。そして、ただたんに「白い砂糖」と書いてある翻訳文があった場合にも、それがグラニュー糖か粉糖かが気になり、けっきょく落ち着かない。
逆に英語の方向から考えた場合、castor sugar の訳語に困る。これは人によってグラニュー糖のこととする人もいれば、また別の人は粉糖のことだと言い、あるいは上白糖のことだと言う人もいる。画像検索や英語の料理サイトを見た限りでは、正解は粉糖である。グラニュー糖よりははるかに細かい。だが料理をあまりしない人が翻訳した文章ならば、おそらく「白っぽい砂糖をすべて上白糖くらいに訳す暴挙」というのが、あるのだろうと思うし、それが今日の混乱につながっているのだろう。
さて、castor sugar とは、文字の意味を考えてみたとき「ふりかけられるほど、さらっとした砂糖」である。薬味のような、食事のときにちょっとふりかける容器を castor と言う。さらに、賽は投げられたの「投げる」も cast であり、語源に関係しているはずだ。
(ちなみにわたしはずっと castor と書いているが、この意味に関しては、すべて caster と互換性があり、どちらのスペルでも問題がない)
ふりかける砂糖…そこまで考えたとき、何十年も前の子供時代に読んだ「長くつ下のピッピ」を思い出した。突然に謎が解けた気がした。
ピッピは隣の家の「きょうだい」(兄妹か、姉弟かは忘れた)トミーとアンニカの家にお茶に呼ばれた際、大人たちに嫌われるような行動を何度も繰り返してしまう。そのうちのひとつが「砂糖を床に撒く」だった。
わたしが幼少時に読んだピッピの翻訳は、白砂糖を「まき砂糖」と訳していたのだ。その場面には、角砂糖と、それ以外の砂糖しか出てこない。ならば対比されるのは普通の白砂糖のはずだが、訳語は「まき砂糖」。まき砂糖なんだからまかなくちゃとピッピが言っていた記憶があるが、ちんぷんかんぷんだった。
現在わたしが手にしている岩波少年文庫のピッピ本では「ふりかけるこな砂糖」となっているが、わたしが子供のころ目にした絵本での訳文も、この表現も、どちらも(英語で言うならば)castor sugarだった可能性が高い。ピッピの原作はスウェーデン語なので、castor sugarをスウェーデン語にするならströsockerのはずだ(これはGoogle翻訳で見つけた単語)。これもまた「投げる」単語である。
この「ふりかける(つまり粉の)白い砂糖」を、わたしの幼少時の翻訳では「まき砂糖」としていたことになる。なるほど、これで納得がいった。
なお、わたしが子供のころに読んでいたほうの訳では、ピッピのおばあさん宅のお手伝いは「マルディグラにブタの丸焼きを用意して耳に紙を挟んで口にリンゴを入れるべきところを自分が口にリンゴを入れた」となっていたが、わたしが現在手にしている本では、クリスマスになっている。もちろん常識としての正解はマルディグラなのだが、おそらく原文はピッピがわざと間違えて、クリスマスにしていたのではないだろうかと想像。
ピッピの本は何度も何度も読んだので、当時の文章が現在手にしている本と容易に比較できておもしろい。当時「キャラメル」になっていたものが現在「キャンディ」になっているのも見つけた。なかなかおもしろいものだ。