少し気持ちが落ち着いてきた。中継を見ながらふたつのことに驚かされたのだが、どう書いたらいいのかわからずにいた。
ひとつは、都知事の着物姿。やはり何か迫力のお召し物で登場とは予想していたが、和服であった。さすが貫禄ある大人の女性…と言いたいところではあったが、もしや着付けの専門家が随行していなかったのだろうか。なにやらちょっと、胸元あたりの着こなしが、あれれ、と感じた。しかし、予算節約などをうたって出かけたのであろうし、お供の人も少なかったのだろうから、ご自身が着付けをされた場合であっても、それはご本人らしさ(ご自分ですべておこなったという堂々とした姿)であったかと思う。むろん、専門家がついていたのであれば話は違うのだが、おそらくご自身だろうと想像。
ちなみにわたしは着こなしが残念と思ったのみだったが、ネット上では「雨に濡れとるーっ!」と、着物の価値をわかっているみなさんが絶叫されていたらしい。そこまでは考えなかった。なにやら高い着物らしいということだけは、ネットのみなさんの投稿をあとで拝見して気づいた。そうだったのか。そういえば、乾かすことすら難しいかもしれないほど、ぐっしょりだったような気がする。
もうひとつは、首相。わたしは首相が嫌いではあることに違いないものの、それとは次元の違う驚きだった。最後のマリオ姿での登場に、唖然を通りこして怒りを覚えてしまった。
オリンピックという祭典に、一国の政治家のトップが、選手経験者でも何でもない政治家が、コスチュームで登場である。あとで聞くところによると世間一般はおおむね好意的で、人によっては東京五輪が楽しみになったとまで書いていらしたが、わたしはテレビ画面のこちら側で「なにこれ」と。
北朝鮮のような独裁国家ではあるまいし、政治家のトップが何をしている…?
仮に中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領などがここに出てきて手をふったら、おかしすぎないだろうか。ロンドン五輪では開会式でエリザベス女王がビデオ出演したが、あれは政治家ではなく王室であるし、事情が異なるだろう。オバマ大統領だったら、トルコのエルドアン大統領だったら、韓国の朴槿恵大統領だったら…? 見ている人々は、政治の場ではないのに政治家が出てきたと、思わないだろうか?
いちおうオリンピックは、建前は国家間の競争や対決ではないことになっている。どこかの「都市」で開催される、世界のスポーツの祭典であり、平和の象徴である。その建前は露骨な商業主義の前に薄れてきているかもしれないが、それにしても、こんなに「国」と「総理大臣」というのを全面に出すとは、何を考えているのかと。
ところが、そういう意見が、ネット上ではほとんど見当たらなかったのだ。ほとんどが「おもしろかった」、「びっくりした」で、外国のメディアも「日本人の政治家がこんなことをするとは意外だった」という程度。ごく一部の週刊誌サイトや個人ブログが「なんだこれは」と書くのみ…。わたしと同様の人は、意見を表明できる立場としてはかなり少なかったのか、あるいは雰囲気に飲まれて書けずにいた人も多少はいるかもしれない。
わたしは最初のうち「なぜ誰も怒らないのだろう」、「気持ち悪いと思った人はいないのか」と、そればかり考えて動揺していたが、まずは自分が当日どう思ったかをここに堂々と書いておいて、あとは、同じような人がきっといたはずだと、それを待つことにした。人数が少ないことで書くのをためらっていては、自分が自分を息苦しくさせているようなものである。
最後に、小池知事。
全体として株を上昇させていると思う。そつがない。閉会式の首相登場にも、マイクを向けられて「もっとたくさん国が関与してくださるのかなと、そんな風に受け止めました」と。自分よりあとに登場して話題になった首相をどうこうではなく、ポジティブで、計算ができるお人である。