先日、スティーブン・キングの「クジョー」(文庫本は「クージョ」らしいが、映画は「クジョー」)をテレビでちらちらと見ていた。ディー・ウォーレスが出るほうの70年代のものだ。そして「これは携帯電話時代にはまったく作れない映画だな、と実感。
なにせ、市街地から離れた場所にある修理工場に車を持ちこんだ母と少年が、現地にいたその家のセントバーナード犬(狂犬病がすすんだ状態)に、狙われてしまうのだ。だがその家の人々もすでにクジョーの犠牲になっており主人公らは孤立無援、電話で助けを呼ぼうにも車から出られない。逃げ込んだ車は修理待ちで動かせない。そしてあたりは日差しが照りつけ、このままでは親子そろって熱中症か犬に襲われるかの道しかない…という話である。携帯があれば、すぐさま解決で、助けが呼べてしまう。
いやいや、待て。天候不順か何らかの事故で付近の携帯電波が基地局ごとアウトになっていたら…。携帯が使えないということは、あるかな?
だが、もうひとつ思いついてしまった。これは完璧だ。
やはり70年代の映画「カサンドラ・クロス」。ヨーロッパ横断の寝台列車に、バイオ兵器として極秘に開発されていたウィルスに罹患した男が乗りこんでしまい、列車内の感染が広がったら収拾がつかないので「そうか、列車ごと、なくしちゃえばいいのか」と(関係当局が)悪巧みをはじめる。それに気づいて計画を頓挫させようと奮闘する乗客の物語である。
大規模な列車というのは、トンネルだらけという日本の北陸新幹線と違って、だいたいネット環境が整っているものだ。誰も彼もが一斉に「山なぅ」とか「病気の人が出たなぅ」とか「怖い人たちが列車の窓を外から釘で固定してるなぅ」と、実況中継をはじめるのだから、列車を間違った方向に誘導して殺してしまおうなどという計画は、そもそも成り立たない。まして複数の国を通過するのですべての国の報道機関や政府を欺くのは困難だ。
というわけで、当時の時代設定以外ではリメイクが難しいであろう作品として、カサンドラ・クロスを推しておくことにしよう。