ほんとうは急ぎで買う物があり、それだけを見つけたら店から出るつもりでいたのだが、100円ショップの文房具の棚でノートを見ているうち、熱心に選びはじめてしまった。けっきょく、ノートと、絵本のようにきれいな厚紙の内側に大きめ付箋が各種挟んである商品を購入。
システム手帳よりは大きめで、罫がはいっているわけでもなく、数ページ単位で色柄や模様すら変わってしまうノートだった。これまでノート類といえば「講習会に出るからメモでもとろう」などの、何かの目的を考えて選ぶものばかりだったが、気分で好きな柄のページに走り書きしたら次の日は無関係な場所を開いて何かを書いてもいいし、重要なことがあれば一時的に付箋で目立たせてもいい。そのノートの柄は、わたしにそんな自由な気分をもたらした。イメージとしてはパスポートだ。あちこちの国の入国管理で、係官が適当なページにスタンプを押す。最初からという決まりもなく、適当である。だが適当な中に自由と無限の可能性がある気がして、わくわくした。
数えるほどしか外国に出かけたことのないわたしは、パスポートを作り直しても空欄だらけでスタンプの少ないまま、次を更新していたものだった。最後のパスポートの期限が切れてから10年以上経つかと思う。もうパスポートを作ることもないかもしれないが、あのわくわくする気持ちを、忘れていた何かを、たった108円のノートで思い出すことができたような気がする。