検索したところこのブログでも去年の11月に書いていたようだが(映画「サイの季節」日本版予告編に使われていた音楽が気になるとの内容)、イマジカBSで放送されていたため、ついに本編を見ることができた。
もっとも、人のねたみにより30年も投獄されて妻と離ればなれにされた実在の人物が題材とあっては、以前は見てみたくてたまらなかったものの画面を正視する勇気がなく、最初のうちは家族が見ている隣で別のことをしながら「ながら見」をしていた。
だが、やはり、途中から引きこまれた。
30年も投獄されていた人間の生々しい苦痛や苦悩は描かれない。普通の人間がその境遇に関して思い描けるような強い感情を表すことなく、男はただ日々の仕事をこなすかたわら、丁寧に、妻の消息をたどろうとする。そのひたむきさは、自分の魂の行き着く先を求めるかのような、帰巣本能のような思いに近いのかもしれない。
主人公の詩人男性の表情に激しさがない分だけ、空や海岸、街や人々など、映しだされる光景に荒削りな美しさが際だった。
最終的な決断も含め、話のいくつかの部分が、あえてぼやかされている。空想か実際かの境目も、見る側の判断にゆだねられているように思う。想像してほしいのだろう。どのようにも思い描いてほしいのだろう。
ハッピーエンドとはなり得ない話と承知していたが、もう少しだけでも、明るい終わり方はできなかったのだろうか。
見終えて、胸の中の柔らかな部分を、木でできた固いスプーンでえぐられる思いがした。