先日家族が録画しておいた「64(ろくよん」の前後編を、2日に分けて鑑賞。1週間しかなかった昭和64年に起こった未解決の少女誘拐殺人事件と、時効を目前としたその14年後を描く。原作は横山秀夫。
前半は横山作品らしい警察内部のどろどろとした話(隠蔽や対立)が描かれ、いったいこれはどういう話になるのだろう14年前の事件についてはどの程度の扱いになるのかと心配していたが、主演の佐藤浩市の演技力(永瀬正敏が演じる少女の父親に二度目の対面をし、その最中に涙をこらえきれなくなる)に、目が釘付けになった。もともと好きな役者ではあるが、このシーンは、わたしとしては映画史に残ってもいいのではないかと思えるほどの出来だった。
後編がはじまってすぐ、永瀬正敏が雨の中ひたすらある作業をしている場面が映る。あれは演技という意味ではなく物語の構成として「ああ、なるほどな、そういう話だったのか」と…冒頭ですっきりさせるとはさすがだなと、感心。
緒形直人も名演技ではあった。とくに後編の終盤で、あるものをいきなり口に入れるシーン。目つきがよいのだが…。実はこの話、ちょいと緒形直人の役柄で、描きが薄い。前後編にしてもなお長すぎて描ききれずにそこを割愛したのだろうか。緒形直人がもったいなかった。
もったいないといえば三浦友和の演じた役。切れ者なのか、ちゃっかり者なのか。
話としてはおもしろかったし、横山秀夫らしさも残っていたと思うが、もし何かを削って構成にメリハリを出せるとしたら、役者の選び方だろう。豪華にしすぎたのではないかと。もう少し、無名っぽいような人、地味で名前がすぐ出てこないような役者がいてもよかった——もっとも、今回の作品では裏方でも別の作品では主役を張っている二渡(ふたわたり)を無名の役者にまかせるわけにもいかず中村トオルが出演したのだろうし、無理もないことかもしれないが。
作者の横山秀夫は群馬県で実際に刑事事件の事件記者をしていた経験があり、記者クラブの描写は他作品の原作でも実にリアル。だが群馬県前橋市界隈の話が中心であるのにロケで足利市の織り姫神社が出てきたのは「かなり遠いけど」と、違和感を覚えた。それは小さく書いておこう。