短時間ではあったが、新宿で北海道展の催事に出かけた。平日の午前から昼にかけてというのは、そこそこ混雑も少なめでよい。しかも今日は物産展にあまり慣れていない連れもいたため、短時間で見てまわるにはベストの選択だったと思う。
デパートのエレベータというのは、新宿の駅に直結している建物であれば不可欠な要素だが、とにかく広い。20人くらいは乗れてあたりまえのものが5台程度はフル稼働している。
ほとんどの人は催事会場のようにビルの上階のほうを目指していて、途中の階からわずかな階を乗り降りする人は少ない。それならばエスカレータのほうが手っとり早いからだ。経験から言えば、おそらくエレベータ利用者の8割以上が「地階または1階から、催事などがある上の方の階まで行く人」であろうと思う。つまり最初に乗ったときの混雑は、上のほうの階までほとんど同じである。
今日、あらためて感じたことがある。
途中の階から「すでに混んでいる」エレベータに数名の人が乗るときのことだ。なんとなくの習慣めいたことだが、乗る方は軽く会釈のような動作をし、自分の近くにその人が立つのだろうと察知したドア近くの人は、ほんの「気持ち程度」空間を空けて、迎え入れる動作をする。たとえそんな動作をしなくても人が乗れる空間があったとしても、よほどガラガラの状況でなければ、そういう動作をする人が多い。
今日は途中の階から、会釈など何の動作もしないまま女性と男性が乗ってきた。周囲もよけることはしなかったため空間がじゅうぶんに空いていないまま、混雑した電車に乗るような要領でエレベーターに体を預け、そのまま携帯を見ていた女性を、なんだか珍しいなと思っていた。
少なくとも女性のほうはどうもアジア人らしく、外国語を話すようだった。一緒に乗った男性に声をかけたのか携帯で話していたのかはわからないが、日本語ではない声が聞こえた。男性は先に降りて、女性は別の階で降りた。
観光客のように短期間の滞在だけではこうかもしれないが、これが何ヶ月も住むようになったりすると、会釈をはじめたりするのだろうかと、考えてみた。個人差もあるだろうことはもちろんだが、おおむね、その土地に慣れて周囲と同じような動作をする人は、増えるように思う。
逆に言えば日本を離れて何ヶ月も経った人は、会釈ではない別の動作をするようになる可能性も、じゅううぶんにあるだろう。
人は郷に入っては郷に従うものだ。
外国暮らしの長い人がしばしば嘆いている「日本人はドアを後ろの人のために押さえない」という話も、日本からあまり出たことのない人が多ければ、環境として、気づきにくいことなのかもしれない。かばうつもりはないが、そしてうしろの人が持つと信じて押さえていたドアを「あっ、どもですっ」と通り抜けされたときの悔しさもたしかにあるが、いつか気づく人が増えることを、期待したい。