不思議な人を見ると片っ端から認知症を疑ってはいけないのだろうが、ついそれを連想してしまう。
ある量販店(差し障りがあるといけないので念のためにぼかして書くがデパートとスーパーの中間くらいの店)で、客は少ないのに支払いが長引いている場所があった。なんとなく見ていた。
すっきりした身支度の高齢女性(60過ぎくらいだろうか?)が、何もこんな量販店で大量買いしなくてもいいだろうにと思うような種類と量を買っていた。いでたちから考えてもデパートに行きそうな人に見えた。それらを店員が手分けしてたたんで袋に入れていたが、ちょっとした外出用というよりは、それなりにしゃれた場所に出る服(ややフォーマルな薄着系)を何着も。
女性の荷物は、まるでこれから小旅行に出るか、あるいは東京に到着した直後のような小さめスーツケース(キャリーバッグ)である。買っている服は、わたしが目にしたのが店員がたたみはじめて何着目であったにせよ、その段階で4着はあったように思う。
ところが、慌ただしく袋詰めをする店員と話をしていたその女性が「それって、サイズいくつでしたっけ?」と言いだした。店員が軽く驚いて「11号ですが、よろしいですか」と答える。その女性はもう少し小柄に思えたが、本人用ではないのだろうか。少し微妙な間があいてから、女性は「いいです」と答えた。
さらに、また何か声をかけた。わたしは思わずまじまじと見てしまったが、どうも最後の服をたたもうとした店員に「着て帰る」と言ったらしく、店員はあわてて値札やブランドのタグをはさみで外して、持ち帰りの商品がはいった袋に入れ、上着を女性に渡した。
女性は、それを受けとって袖を通したのだが…。いままで着ていた上着を手にとったまま、新しく着たその服が、内側の服とまったく合っていない。いままでの上着は上品な色柄だったが、その内側はスポーツでもするかのようなジャージっぽい服に似ていて、それなのに女性はパーティなどに着てもおかしくなさそうな薄い布地の黒(袖なし、引っかけるだけ)を、上から着てしまったのである。かなりアンバランス。
そのまま女性は去っていったが、わたしはなんだかとても不思議なものを見た気がした。いったいどういうことだったのだろうか。
何でも認知症を疑ってはいけないと思うが、身近に7年も認知症患者がいると、どうしても発想がそちらに向かってしまう。義母も、義父が突然死してわたしたちが駆けつけたとき、不思議な服を着ていた。東京に連れてきてからも、しばらくはおかしかった。そのうち、こちらが服をすべて選んでそれ以外を選びづらくしたため(衣装ケースなどを見えにくい場所においた)、なんとか見た目は普通になった。
どこの誰とも知らない女性ではあったが、少し気になった。
うちの義父母のように、着もしない服を、袋から出すこともなく大量に買って家に放置し、あげくにゴミ屋敷にしてしまった人たちもいる。あの女性が、誰かの代理で服を買っていたのだと、できればそう願いたい。