米国トランプ大統領がイスラエルの首都をエルサレムに認定したそうだ。その直前にまさかというニュアンスまじりにネットでニュースが流れたとき、てっきり虚構新聞のように皮肉たっぷりに書いているだけだと思ったが、実際の話であった。そしてあれよというまに、認定がなされた → NHK news 2017.12.07 トランプ大統領 エルサレムをイスラエル首都に認定宣言
話は少し飛ぶが、30年くらい前だっただろうか。人気ミステリ作家であった山村美紗の初期の名作「花の棺」を読んだ。日本語に堪能な若いアメリカ人女性という設定のキャサリンが、京都を舞台に活躍する素人探偵シリーズの第一作だ。
(画像はAmazonから)
キャサリンは登場時にアメリカ副大統領の令嬢という設定で、日本語には堪能であっても中身はアメリカ人、日本の古都で起こる事件に違う視点で疑問を投げかけ、事件を解決に導くというシリーズだ。第一作の「花の棺」に、シオニズムという言葉が出てきた。
あるシーンで有名な華道家が、キャサリンのためにとくにと、地味な色合いの花を生ける。ほかの出席者よりも派手さを欠くおとなしめの色合いに戸惑う一同だが、やがてそれを生けた華道家がキャサリンに説明する——紫苑(しおん)の花をシオニズムにかけてみました、と(キャサリンがユダヤ系であるため)。
賓客がユダヤ系だからといって、華道の席でそのテーマは大丈夫なのかとか、だいいち英語では、シオニズムは紫苑と違う発音ではないだろうかとか(Zionismの発音をカタカナで書くとザイオニズム)、かなり驚いたことを覚えている。ストーリーそのものはとても楽しく一気に読めたものだったし、使われたトリックも覚えているほど印象的だったが、やはりこのシーンもまた、いまだによく思い出す。
こうしたフィクション内部のシーンならば、仮に軽い違和感があろうと、最終的には作者が自由に表現するその世界を読者の大半が受け入れるかどうかの問題である。小説ならば、である。
アメリカの大統領が唐突としか思えない行動に出たことで、すでにパレスチナのみならずイスラム諸国で抗議運動が広がり、デモで怪我人も出ているようだ。容易に火種を生み出す、はた迷惑な大統領としか思えない。そしてアメリカという力のある国でトランプという人物が大統領に選ばれたことの重さが、最初はさざ波であるかもしれないがすぐに大きな波となって、世界のあちこちに打ち寄せる。影響力におびえることはできても、立ち向かうことは(大きな国の内部ですら彼を大統領から下ろせないならば他国が彼を罷免させられることは)可能ではないというのが、普通の人間の発想だ。
悲しいかな、一度とことん壊れないと、世の中というものは直せないのか。何も学ばず、なりゆきにしたがって同じこと(争い)をくり返す。人間とは愚かなものだ。そしてすべての場合、壊されるのも反省するのも努力するのも下々の者で、為政者は壊されもしなければ反省もしない、努力をすることもない。