今日は外出先でおもしろい会話が聞こえてきた。どうも道のどこかに「アメニティマンション」という看板が出た建物があったらしい。若い男女がその前を通り過ぎながら、会話をしていた。
女性のほうが「アメニティマンションて、珍しいというか、おもしろいよね」と言っていた。たしかにつっこみどころのある名前なのだが、はたしてこの人はどこ(アメニティとマンションの組み合わせが楽しいのか、あるいは日本のカタカナ語「マンション」そのものについても、つっこみを入れるのか)に興味を示したのか、わたしは聞いてみたくなった。
つづいてその女性が何を言うのかなと、近くを歩きながら耳をピクピクさせていると、男性の口から出た、わたしとは違う方向からの質問「アメニティってどういう意味」。——ああ、そうか、なるほど、まずそこからが大事だな、はたして女性は…と引きつづき耳をピクピクさせていると…
女性はその質問が想定外だったらしい。おそらくだが、男性が「そうだよねーっ」と、まずは同意してくれて、そこをスタート地点にして何かを話そうとしていたのかもしれない。あきらかにとまどったような声色で、ゆっくりと、言葉の意味を話しはじめた。そのころにはわたしの歩調と合わずに距離が開いていたのでよくは聞き取れなかったが、アメニティのごく一般的な意味は「快適な住環境」であるので、おそらくそれを語っていたものと思われる。
そのふたりがその後どんな会話をしたかわからないが、わたしがそのとき思いついたのは「アメニティグッズ」である。
ホテルなどに宿泊したとき、シャンプーや石けんなどが1〜2回分使える程度の量で洗面台に置かれていたり、あるいはチェックイン時に小袋セットとして手渡しされることもある、あれである。快適な住環境にするためのお手伝い商品という意味がはじまりなのだろうが、本来の意味からくる壮大さ(機能的なデザインや外装を含む建物全体の環境)を、ここまで矮小化して「アメニティ」とはすごい。かつてはそれを笑っていたのだが、最近になってすっかり慣れっこになってしまい、頭の中で「アメニティといえばシャンプー」と連想が定着してきた。
さらに今日は新宿の地下道で、サブナードの方角からだと思うのだが「最後のオフです」と聞こえてきた。オフがここでは単独使用になっているが、元々はプライスオフのはず。つまり「価格割引きをして売るのはこれが最後(明日から定価)」という意味で「最後のオフ」と言っているはずだ。
プライスオフを略して最後だけを独立させ「オフ」として使う。これは別にその店だけが使っている言葉ではなく、実際に多くの人が「通じればそれでいいじゃないか」と思うことかもしれないが、問題はこれが「日本でしか通じないことになかなか気づけない」表現であることだ。そのままカタカナで「ラストオフ」とか言ってしまう人も出てくるだろう。それはまったくもって、英語としては通じない。
(ちなみに日本語ではカタカナでプライスオフということが多いが、英語ではたいてい off-price という)
ほんとうに、日本語はカタカナが増えすぎた。言葉を大切にすべき事柄までが薄っぺらくなってしまいかねない現状を思えば、外国の言葉が日本語として定着するまでのあいだに、もう少しの努力と、何らかの歯止めがあってもよかったのではないかと、いまごろになって危機感を感じている。