古本をめぐる、ドラマのような話

 半年くらい前だっただろか。ある文庫本を中古で購入した。洋菓子関連のもので、たいへん優れている内容と思う。だが残念なことに著者の夭折によって、その著者の単独名で出版され世に出た本はそれほど多くない。そのうちの一冊だ。

 注文したのち郵便で届いたその本をめくると、写真など数ページの案内ののちに、書名の書かれた内扉のようなページが現れた。そしてそこにはゴールドを帯びた色合いのサインペン文字で、ある珍しい姓名の受取人に対し、著者の直筆で謝辞が記されていた。

 受取人に贈ったそのメッセージの日付が、わたしが伝え聞いている著者の死去まで、さほど期間の空いていないものだった。この人はこれを書いたときに自分が間もなくなくなるなど、ご存じなかったのだ。それを思うと不思議な気持ちになった。そしてふたたび、珍しい受取人名に目を留めた。読み方はこれでいいのかと、同じようなお名前の方がいるかどうかの気軽な気持ちで検索をかけた。

 ——驚いた。読み方の参考どころか、Googleに、たくさんご本人情報が現れた。それはわたしも記憶しているほど話題になった事件の被害者であり、お亡くなりになっている方だった。

 本のサインの日付と、お亡くなりになった年のあいだには10年以上あった。とても保存状態のよい本だったが、ご本人は、ご存命のうちに本を手放されたのだろうか。それともお亡くなりになったのちに古本屋に売られたのだろうか——そんな、考えてもどうしようもないことを、あれこれ思い描いた。
 短い文面とはいえ、著者のメッセージから読みとれるものもあった。進呈した相手はとても華やかで、たくさん洋菓子を買い求める人だったのだろう。その人物についてはたしかにお金持ちであるということがネット情報でも読みとれるし、そしてわたしのなんとなくの記憶にも、そんな風に残っている。

 出版から15年以上も経ち、保存状態のよい文庫。著者もお相手もすでに他界されている。個人的にはまったく存じ上げない方々の、小さなやりとりを偶然に目にしたわたしは、普通の新刊書からは得られない宝物を、手に入れた気がしている。

 パンづくりが多くなり、あまり菓子は作らなくなってきてしまったが、ひとつくらいはこの本から何か記念に焼いてみたいと、それ以来ずっと思っている。

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Comments

こんにちは。たまたま私のTwitterタイムラインに、こんな素敵な話が流れていました。
https://twitter.com/kuroyatomoya/status/1004619007498915840

素晴らしいツイートをご紹介いただき、ありがとうございます。
とてもよいお話ですね。

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